「人生100年時代を笑顔で送るためのお金の法則」Vol.289
繰下げ請求の手続きで気をつけたい意外な落とし穴
老後2000万円問題を発端に、年金に関する関心が深まりました。
特に、年金の繰下げ請求は、人生100年時代の大きな武器になります。
知らないと大損です!
一方で、しくみをよく理解しないまま、事務的なミスで起こりうる間違い等々。
請求してからでは、取り返しのつかなくなる事もあります。
そんな、意外な落とし穴を解説させて頂きます。
繰下げ請求のつもりが、本来請求してしまう
「本来請求」とは、原則通りに65歳の時点で年金の請求をする事です。
65歳時に本来請求と知らずに書類を送ってしまう
今現在、65歳未満で特別支給の老齢厚生年金を受給されている方や、受給していない方にも、日本年金機構から「年金請求書」の書類が送られてきます。
特別支給の老齢厚生年金について詳しく知りたい方は
繰下げ請求を希望なら、そのまま放置すればいいのです。
しかし、内容を理解しないまま、「年金請求書」を出してしまう。
結果的に、繰下げの予定が、65歳からの本来受給になってしまう。
一度受給すると、繰下げ請求はできません。
66歳時以降、繰下げのつもりが、さかのぼって請求をしてしまう
一方で、66歳時以降に「繰下げ請求」をしたつもりが、65歳にさかのぼって請求をしてしまった。
例えば、66歳の時点で2つの選択肢があります。
①繰下げによる増額請求(1カ月0.7%×12=8.4%の増額)
②増額のない「年金をさかのぼって請求」→単純に65歳からの未受給分を含めての請求。
つまり、66歳以降は常に選択肢が2つあるのです。
■毎月の年金額を増やしたい方は「繰下げによる請求請求」。
■毎月の年金額は変わらず、65歳にさかのぼって、まとめて欲しい方は「増額のない年金をさかのぼって受給」になります。
ここでも、知識不足による、勘違いが起こりうるのです。
繰下げ請求について、詳しく知りたい方は、下の記事をご参照下さい。
年下の奥様がいて、たくさんの加給年金をもらうはずが・・・
加給年金というのは、家族手当とも呼ばれております。
一定の条件に合致した方のみに支給がされます。
加給年金の要件
厚生年金の加入期間が原則65歳時点で20年以上。
その時点で配偶者が
①65歳未満
②恒常的な年収が850万円未満
③厚生年金加入が20年未満
この条件に合致した方に、年額で約39万円が、配偶者が65歳に到達するまで支給されます。
つまり、10歳年下なら、約400万円!
加給年金についての記事もご参照下さい。
ところが、繰下げ請求をすると、加給年金がもらえないのです。
繰下げ請求と加給年金、どちらを選択すればいいのか?
この場合は、具体的にシミュレーションをされた方がいいです。
繰下げ請求をして、男性の平均寿命81歳まで生存された場合
*65歳時点年金月額を15万円と仮定
*単位は円
繰下げ年齢 |
年金月額(増額分) |
年金年額(増額分) |
81歳までの増額累計 |
66歳 |
162,600(12,600) |
1,951,200(151,200) |
2,268,000 |
67歳 |
175,200(25,200) |
2,102,400(302,400) |
4,233,600 |
68歳 |
187,800(37,800) |
2,253,600(453,600) |
5,896,800 |
69歳 |
200,400(50,400) |
2,404,800(604,800) |
7,257,600 |
70歳 |
213,000(63,000) |
2,556,000(756,000) |
8,316,000 |
*筆者が作成
加給年金を受給した場合の加給年金累計額
配偶者との年齢差 |
加給年金年額 |
加給年金累計金額 |
5歳 |
390,100円 |
1,950,500円 |
10歳 |
390,100円 |
3,901,000円 |
15歳 |
390,100円 |
5,851,500円 |
20歳 |
390,100円 |
7,802,000円 |
*筆者が作成。
この2つの表で分かる事です。
■配偶者との年齢差が10歳以上なら67歳以降に繰下げ請求をする。
■配偶者との年齢差が15歳以上なら68歳以降に繰下げ請求をする。
■配偶者との年齢差が20歳以上なら70歳以降に繰下げ請求をする。
年金額が増えて、税金、社会保険料も増えた!
65歳で本来請求できる方が70歳で繰下げをすると、単純に、年金額が42%増えます。
*0.7%×60ケ月=42%
収入が増えれば、当然、税金や社会保険料にも影響します
具体的には
■税金とは:所得税、住民税
■社会保険料とは:健康保険料、介護保険料等
では、どの程度負担が増えるのか?
所得税
所得税については、下記の表を使い、所得金額を計算します。
*控除は基礎控除のみ適用。
①例えば、65歳以上で収入が180万円の場合。
180万円×100%-1,100,000円=700,000円
700,000円ー380,000円(基礎控除)=320,000円
②70歳で繰下げ請求をして、収入が約256万円の場合
256万円×100%-1,100,000円=1,460,000円
1,460,000円ー380,000円(基礎控除)=1,080,000円
年 齢 |
公的年金等の収入金額の合計額 |
割合 |
控除額 |
65歳未満 |
600,000円以下までは所得ゼロ |
||
600,001円~1,299,999円まで |
100% |
600,000円 |
|
1,300,000円~4,099,999円まで |
75% |
275,000円 |
|
4,100,000円~7,699,999円まで |
85% |
685,000円 |
|
7,700,000円~9,999,999円まで |
95% |
1,455,000円 |
|
10,000,000円以上 |
100% |
1,955,000円 |
|
65歳以上 |
1,100,000円以下までは所得ゼロ |
||
1,100,001円~3,299,999円まで |
100% |
1,100,000円 |
|
3,300,000円~4,099,999円まで |
75% |
275,000円 |
|
4,100,000円~7,699,999円まで |
85% |
685,000円 |
|
7,700,000円~9,999,999円まで |
95% |
1,455,000円 |
|
10,000,000円以上 |
100% |
1,955,000円 |
次に、所得金額に税率を掛けます。
①320,000円×5%=16,000円
②1,080,000円×5%=54,000円
*つまり、繰下げ請求で42%年金額が増え、所得税も38,000円増えました。
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円を超え330万円以下 |
10% |
97,500円 |
330万円を超え695万円以下 |
20% |
427,500円 |
695万円を超え900万円以下 |
23% |
636,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 |
33% |
1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 |
40% |
2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% |
4,796,000円 |
住民税
住民税は地域により違いますが、ざっくり所得の10%で計算します。
*控除は基礎控除のみ。
①700,000円ー330,000円(基礎控除)=370,000円
370,000円×10%=37,000円
②1,460,000円-330,000円(基礎控除)=1,130,000円
1,130,000円×10%=113,000円
*つまり、繰下げ請求した事で、住民税が約76,000円増えます。
健康保険料
健康保険料も地域により違いますので、今回は札幌市で試算します。
札幌市がHPで公表してます、国民健康保険料の目安を使わせて頂きます。
条件として、世帯の中に1人だけ所得があり、公的年金以外に所得がない事です。
*あくまで早見表で条件が近い収入層を適用。
①収入が180万円、所得が60万円、2人世帯の場合で79,610円
②収入が260万円、所得が140万円、2人世帯の場合で208,720円
*つまり、繰下げ請求した事で、健康保険料が約13万円増えます。
介護保険料
介護保険料も地域により違います。
但し、札幌市の場合、所得金額が125万円未満であれば変わりませんので、差はありません。
トータルでどの程度負担が増えるのか
結局、所得税、住民税、健康保険料の増額分を計算するとどうなるか?
■所得税増額:38,000円
■住民税増額:約76,000円
■健康保険料増額:約13万円
合計すると、約244,000円。
つまり、70歳で繰下げ請求した場合。
年金額が年間で756,000円増えます。
そして、税金、社会保険料も約244,000円増えます。
ですので、実際増えたのは512,000円。
増額率も42%ではなく28.4%になります。
*実際の計算は、使える控除もあり、各個人で相違します。
繰下げできる、と勘違いする特別支給の老齢厚生年金のもらい損ね
特別支給の老齢厚生と老齢厚生は、制度の内容が違うのです。
結論から言えば、こんな感じです。
特別支給の老齢厚生年金は繰下げ請求ができません。
老齢厚生年金は繰下げ請求ができます。
皆様の中で、64歳までは収入もあるし、特別支給の老齢厚生年金は今すぐにもらう必要はない。
繰下げして、後から増額してもらおう、と考えるのも普通の考え方です。
しかし、残念ながら、繰下げ請求はできないのです。
ですので、請求はしないと損なのです。
年金の請求に関する時効は5年です
ですので、仮に勘違いされても、70歳に到達する前に請求をすれば間に合います。
そして、仮に70歳間際に請求をすると、5年分の年金が一括で受取れます。
その分、一時所得で税金も増えますので、注意が必要です。
このように、そもそも年金制度は複雑です。
一方で、勘違いをして、損をするのは自分です。
ですので、早い時期から、年金に関する勉強は必要です。
お近くの年金事務所や社会保険労務士に相談する事も大事です。
年金も含めて、将来の老後資金の準備について、不安の方は、個別相談もご活用下さい。
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本日も、最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
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